負けに不思議の負けなし(上)(下)- 野村克也

いまから30年前に書かれた本。

週刊朝日の連載。連載をまとめた本は、書かれた時代を反映された瑞々しさがとてもいい。

上巻でいちばん印象に残ったのが、平松政次投手を紹介してる「力の衰えた分だけ賢くなれ」( 1983年7月8日)という回。

『おそらく、この非凡な投手にはジャイアンツ戦以外に自分を燃焼させる場所がなかったのだろう。チームは弱く、優勝という目標はかかげにくい。となると、全力で立ち向かうテーマは一つしかないではないか』

平松投手は、通算勝利数の4分の1が巨人戦。対巨人勝利数で歴代2位。しかも、対巨人で勝ち越している投手は、星野仙一投手と平松さんしかいないらしい。

文芸春秋に、田淵幸一さんが、平松投手との対戦について語っている。

「平松政次には一年目の開幕戦、第一打席で、三球三振に打ち取られた。しかもあまりのスピードに一度も振ることはできなかったのです。(中略)すぐ構えを小さくした。すると、次の試合で、早速、二ホーマーです。」

 

もうひとつが、落合博満選手の「個人企業主の徹底した生き方」(1983年9月16日)。

『自分の安打がチームの最終目標に結びつかないと、どうしてもどこか、力が抜ける。いくら個人主義的な言葉を弄して自分の心を鼓舞してみても、心底から燃えてくるものがない。(中略)ふとしたはずみに自分が惨めになったりもする。肝っ玉落合だって本当はそうに違いない。』

選手だった頃の落合氏に、

「チームの成績がバッティングに影響しないか」と聞くと

「気にしてもしょうがないでしょ。私ら、打ってなんぼの個人企業ですからね」という答えが返ってきたという。

ほかにも、

「参謀」を書いた森繁和投手についても結構触れられている。「専門職が求められている」(2013年)から。

『西武の森繁和も江夏に似たところがある。去年、途中からストッパーとして使われるようになったが、内心は面白くなかったらしい。』

この上下巻は、監督時代以降に書いた本よりも、面白い。というか、野球本のなかでも、ピカ一の面白さ。