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Netflix株価低迷 – 消える競合優位性

年初から70%下落したNetflixの株価

2022年度第一四半期決算発表があった4月20日、Netflixの株価は前日終値の348.61ドルから226.19ドルまで36%下落した。創業以来、初めて加入者が減少したのがきっかけと見られている

だが、Netflixの株価が下落したのは、今回が初めてではない。

3ヶ月前、2021年度決算が発表された1月20日から1月26日にかけて、株価は508.25ドルから359.70ドルと30%下落している。

しかも同社の株価は未だ下落を続けており、4月29日現在で190.36ドルと1月3日の年初来高値597.37ドルの約3分の1に減少してしまった。

全世界190の国と地域でサービス展開し、2.21億人の会員がいるNetflix。2021年9月に公開された「イカゲーム」が大ヒットしたのも束の間。この株価低迷は、コンテンツビジネスのリスクの高さを改めて気づかせてくれる。

本稿では、2007年にインターネット配信を開始して以来15年間、映画やテレビなどに分散されていた映像コンテンツの集金機能を集約し、一気に成長したNetflixになぜ翳りが見えてきたのか分析したい。

わずか0.09%の解約率に反応した市場

まず、同社の経営指標を見てみる。

2021年12月期の売上は296.97億ドル(前年比118%)。2022年度第一四半期(3月末)の売上は42.84億ドル(前年同期109%, 前四半期102%)。2022年第一四半期のOperating income(営業利益)は、19.71億ドル(前年同期100%, 前四半期312%)である。キャッシュフローがマイナスになっているのが気になるが、売上、営業利益とも、毎四半期の数値は、この1年前四半期比102-107%の範囲であり、成長が緩やかになったとはいえ、急激に落ち込んではない。

では、会員数はどうか。

2022年3月末での会員数は2.21億人。エリア別の会員数割合は、北米34%、33%が欧州・アフリカ、南米18%、アジア15%となっている。この3ヶ月間の会員数の減少は20.3万人。会員数2.21億人に対し、0.09%。北米が6.36万人。欧州アフリカが30.3万人。南米が3.51万人。ただ、アジアは10.8万人増えている。

グローバルで一律に会員が減っているわけではなく、減少数もごくわずかである。デロイトが発表した調査によると、SVODサービスの解約率は米国で一般的に30%という。このデータに比べるとNetflixの解約率は小さい。

経営指標から伺えるのは、会員が急激に上下しないエンタメ系月額課金型(サブスクリプション)ビジネスそのものであり、株価低迷とは直結しないように見える。

では、なぜ市場はNetflixの将来性に見切りをつけているのだろう。

ハリウッドの自社配信プラットフォームとコンテンツ囲い込みで先行者利益が消えた

第一の要因は、SVOD(月額課金型)市場の競争が激化し、Netflixの先行者利益が消失した点にある。そのポイントは次の2点にまとめられる。

  1. 2010年代からハリウッド大手スタジオの買収が続き、有力コンテンツが集約された。
  2. 巨大化したメディアコングロマリットは、自ら配信プラットフォームを開始、コンテンツ囲い込み戦略を取り始めた。

SVOD市場は、Netflix以外に、Disney+やhuluを運営するDisney、AT&T傘下のWarner MediaのHBO、Amazon、4社の寡占市場である。

ここでは、Netflixと直接競合する有力プレイヤー2社を紹介しよう。

Disney+は、2018年にサービス開始し、現在会員数は1.298億人(2022年1月)。前年同期比136%と急成長している。Disneyがこの10年間買収してきた人気コンテンツは、ここでしか見れない。

Disneyは、2009年にアベンジャーズなど人気キャラクターを抱えるマーベルを43億ドルで買収したほか、スターウォーズを制作してきたルーカス・フィルム(2015年40億ドル)や、2019年には大手ハリウッドスタジオのFOXを524億ドルで買収した。Disney全体の売上は674億ドル(2021年9月期)で、Netflixの2.27倍である。

もう1社、ドラマを制作するケーブルチャンネルHBOの配信プラットフォームHBO maxも成長著しい。会員数は7,675.7万人(2022年3月末)。前年同期比142%、前四半期比104%で、大きく会員を伸ばしている。HBOはTime Warner傘下のチャンネルだが、2016年に米国通信大手AT&TがTime Warnerを854億ドルで買収したため、現在はAT&T傘下となっている。

こうしたハリウッド大手スタジオ各社は、有力コンテンツを自社SVODプラットフォームに独占的に配信する。Netflixが配信していたDisney傘下マーベルのドラマは、2022年3月に契約満了となり、Netflixではマーベル作品は見れなくなってしまった。

Netflixがインターネット配信(SVOD)を開始した2007年当時は、ハリウッド大手スタジオはどこも熱心にネット配信に取り組んでいなかった。その点で、Netflixは、DVDに変わる新たな収益源として重宝されていた。

ところが、買収による巨大化とテクノロジーのコモディティ化により、ハリウッド自身でSVODサービスが始められるようになると、テクノロジー、コンテンツともども、Netflixの競合優位性は失われてしまった。

これが、Netflixの株価低迷の第一の要因である。

tiktokが成長し、超短尺コンテンツが連続視聴される

Netflixの株価低迷は、直接競合するSVODプレイヤーの成長だけでない。YouTubeやtiktokなどAVOD(無料動画プラットフォーム)市場にも有力なプレイヤーが台頭し、ユーザーの限られた時間を奪っているのが、第二の要因だ。

AVOD市場の有力プレイヤーは、tiktok、YouTube、Facebookの3者

なかでも、急成長しているのがtiktokである。

調査会社App annie社によれば、2021年4月以降tiktokの視聴時間はYouTubeを上回っているという。

また、2022年3月のeMarketer社調査は、Z世代(12-17歳)の87.6%がYouTubeを利用、tiktokは65.3%であるが、前年比はYouTubeが1.5%増加に対し、tiktokは13.6%も伸びたという。eMarketer社は、2025年までに、18-24歳世代のYouTube利用者が2,420万人、tiktokが2,660万人と逆転すると予測する

では、彼らはどんなコンテンツを見ているのか?

2019年8月のtiktokユーザー白書によれば、tiktokユーザーの視聴時間は1日42分、160-180本以上の作品を見ていることになるというYouTubeの超短尺コンテンツ配信サービスShortsは、1日150億回視聴されている

Netflixはドラマを初回から最終回まで一気に見るビンジウォッチングを広めたが、tiktokは超短尺コンテンツを連続して100本以上見るという視聴行動を広めている。スマートフォンが主要なスクリーンになった環境で、最適なコンテンツは10秒から30秒のコンテンツなのである。

コンテンツは超短尺になり、視聴本数は増大する。SVODが配信するタイトル数では、スマホの映像重要は明らかに不足だ。この膨大な視聴需要を満たす制作リソースは、既存のハリウッド大手にもNetflixにもない。tiktokやYouTubeに投稿する消費者が担うしかないのである。

2021年、スマートフォンは、世界で14.3億台(前年比106%; ガートナー社)売れた。また、5G対象人数は、2020年11.7億人。2025年には41.4億人にまで伸びる

スマートフォンと高速モバイルネットワークの普及は、さらにスマホでの映像需要を増やすだろう。この成長を続ける新たなパイを取り込むのはtiktokやYouTubeであり、NetflixだけでなくSVODプレイヤー全員に脅威となるだろう。

まとめ:Netflixの苦境の要因と今後の成長戦略

ここまでみてきたように、Netflixの苦境は、次の3点にまとめることができる。

  1. ハリウッド大手の自社配信プラットフォーム開始とコンテンツ囲い込み
  2. スマホがもたらす超短尺動画の視聴消費行動
  3. ゲームなど映像以外のコンテンツの成長

では、Netflixの次の成長戦略はどこにあるのだろうか。新たなコンテンツ領域に踏み込むか、低価格パッケージを展開し、ターゲットを拡げる下記2点が考えられるのではないだろうか。

  1. ゲームなど新たなコンテンツの取り込み
  2. 広告視聴を条件にした安価なパッケージの提供

2022年3月Netflixは、フィンランドのゲーム制作会社Next Gamesと米国ゲーム会社Boss Fightを買収した。2017年Netflixの競合は睡眠時間だった。2019年、それはYouTubeとなり、2020年にはtiktokが、株主へのShareholder letterの競合リストに載った。それが、今年2022年には、ゲームであると言っている

スマホのスクリーン争奪戦には、tiktokなどAVODだけでなく、SNSアプリやゲームが競い合っている。Netflixは映像コンテンツだけでなく、需要の高いこうしたコンテンツを取り込むことも必要であろう。

世界を制したNetflix。しかし、ハリウッドの自社配信サービス開始と超短尺の映像ビジネスの勃興により、いままでの競合優位が消失しかけている。ゲームなどコンテンツのジャンルを拡大して、このままコンテンツビジネスのみで成長できるのか?HBOやAmazon Primeなどは、通信サービスやeコマースとのバンドルである。映像コンテンツのみで、ここまで巨大化した企業はない。巨大な通信会社などに買収されるのか?今後に注目したい。

SVOD AVOD
Netflix Disney+ HBO max Amazon prime YouTube Facebook tiktok
会員数 2.21億人 1.298億人 0.765億人 1.17億人 28億人(MAU) 19.1億人(MAU) 10億人
売上 296.97億ドル 678億ドル(Disney) 1,463.9億ドル(AT&T) 4,698億ドル(Amazon) 288.45億ドル(YouTubeのみ) 1,179.49億ドル
有力コンテンツ イカゲーム、愛の不時着、ザ・クラウン アベンジャーズ、スターウォーズ セックスアンドシティ、ゲームオブスローン
米国内(ARPU11.15ドル、0.468億人) 米国内(0.533億人)

(初出:週刊エコノミスト 2022年5月)

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