インターネット裁判所・スコア社会

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中国のインターネット裁判所

最近、中国のスタートアップの方から、中国ではブロックチェーンを利用した著作権管理や違法動画の追跡などが盛り上がっていると聞いた。その会社も、音楽の著作権管理をブロックチェーンで実装したいとのことだった。調べてみると、たしかに、インターネット裁判所なるものが既に稼働している。

 

北京のインターネット裁判所が始動したのは2018年9月。扱う案件は、Eコマースでの不払いや、動画や音楽、アニメなどの違法配信、インターネットドメインの所有権など、インターネット上で完結する取引に特化している。スマートフォンなどで顔認証、電子印鑑など全ての手続きがインターネットで完結する。

 

分散型管理システムの「ブロックチェーン」技術を利用しているのも特徴である。たとえば、人気ユーチューバーが高層ビルから転落した動画を拡散した動画プラットフォームが、高層ビル登攀の危険性を注意しなかったと訴えられたケースでは、拡散された動画やその再生回数などの記録がブロックチェーンに記載され、証拠として採用された。ブロックチェーンに記録されたデータは後から改ざんすることが不可能なため、裁判でも証拠として採用可能とされている。

 

こうしたブロックチェーンの特徴を法的な手続きに利用する仕組みを「スマートコントラクト」と呼ぶ。取引をオンラインで行うことを前提に、決裁手順を予めプログラミングしておく。一度、プログラミングされた決裁ルートにのれば、自動で取引が終了する。証拠提出も罰金の支払いもオンラインで済ませられるのであれば、提訴から判決まで、迅速に済ませることができるし、 大量の訴訟をさばくことも可能である。

 

このインターネット裁判所で利用されるブロックチェーン技術は、中国のIT企業大手三社の一つBaiduが提供する。Baiduの提供するブロックチェーンは、街頭の監視カメラ映像も記録、保存しているという。CompariTechによれば、世界中で最も監視カメラの多い都市上位10位のうち8都市が中国の都市である。重慶、深セン上海がトップ3だ。

 

リアルな生活行動も改ざん不可能な映像としてブロックチェーンに記録されてしまうとどんな影響があるだろうか。たとえば、車載カメラに録画されたあおり運転の模様がブロックチェーンに記録される。AIなどプログラムが法律に則り、あおり運転と認識する。すると、自動で交通違反として、あおり運転した側の違反が記録され、口座から罰金が引き落とされることになる。つまり、インターネット裁判所とは、手続きをオンラインで行うだけでなく、こうしたスマートコントラクトに基づき迅速かつ大量に法規違反を見つけることにも活躍する。

 

オンライン授業

 

コロナ禍による外出自粛の影響は、教育界にも影響する。2020年5月13日に公表された文科省調査によると、高専、大学でオンライン授業を実施している学校は約70%。筆者が授業をしているiU(情報経営イノベーション大学)でも、8月までの前期授業は全てオンライン実施となった。

 

授業はzoomで行っている。会話の「間」や、顔出ししない学生、ネットワークの問題、対応すべき事象は多いが、筆者はオンライン授業を楽しんでいる。ゲストを呼ぶのも楽だし、自分も学校に行く必要がない。授業中のグループワークで作成する資料の共有も簡単にできる。動画や音楽もかけれる。教室を飛び出たインタラクティブなメディア活動と思っている。リアルな授業が復活しても、オンラインも併用で続けるべきだと思えるくらいだ。

 

なにより、学生がオンライン環境にすぐ慣れてしまった。オンライン授業は、zoomを始め、複数のアプリを併用する。資料作成、共有、投票、意見記入などなど。最初はかなり煩雑ではあるのだが、学生たちはスグに使いこなすようになった。10代後半の柔軟性と学びの速さに驚くばかりである。オンライン授業の弊害を述べる意見は、学校側や先生目線のものが多いが、学生は難なく様々な課題を乗り越えている気がする。

オンライン世代 – 時間の拘束がない

 

考えてみると、多くの大学生は、高校時代から、夜中、LINE電話で友達と繋がり、会話をしながらゲームをするといったライフスタイル送ってきてるはずである。オンラインになって騒いでいるのは大人だけで、学生や若い世代は特に問題もないのかもしれない。

 

オンラインコミュニケーションが増えてくれば、それだけリアルな生活で必要だったモノやコトの需要が減るだろう。コロナ期間中に、レストランなどの持ち帰り、テイクアウトが流行った。Uber Eatsや出前館のバイクもよく見かけた。

「すっぴん」でコトが済むとなると、服や移動の費用が減る。オフィススペースも社員全員の机が常時必要かと言われると少し疑問だろう。

 

日立が今後も在宅勤務を標準とする働き方に転換すると発表したり、グーグルやフェイスブックなどの米国IT企業は2020年末まで在宅勤務を続ける予定だ。筆者の取引先の米国企業もいつ在宅勤務が解除されるかわからないという。さらに、もともとオンライン生活に慣れている大学生たちが、どんどん社会にでていく。リアルとオンラインの境界がない世代は、様々な日常サービスをオンラインで済ませたいと思うだろう。つまり、オンライン化が進んでいない領域の産業構造は大きく変わり、大きなビジネスチャンスがあるといえる。

スコア社会で礼儀正しく

 

冒頭紹介したインターネット裁判所など、中国のオンラインサービスは、日本以上に日常に染み込んでいる。生活用品の購入から決済、音楽や映像などの娯楽に至るまで、日常の生活がオンラインで完結してしまう。日本でいうLINEのようなチャットSNS「WeChat」の利用者は12億人、決済サービス「Alipay」も12億人、Eコマースサイト「Alibaba」は7億人、Netflixのような動画配信サービス「iQiyi」の有料会員は1億人を超える。これだけの消費者が利用するオンラインサービスは、もはや社会インフラである。オンラインによる弊害などといった意見はもはや意味をなさない。

 

中国のIT企業大手三社の一つAlibabaの金融子会社「Alifinance」が展開する「芝麻信用」というクレジットスコアサービスがある。この芝麻信用のスコアは、ローンを受けれるかといった金融サービスだけでなく、就職採用時の評価など社会的な個人評価として利用されている。というのも、芝麻信用のスコアは、学歴、交通違反など法律遵守しているか?、勤務先、人脈などを加味する。つまり、利用額の多寡だけでなく生活行動も反映させているので、人格なども重要になってくる採用時の評価基準として使えるのだ。

 

面白いのは、こうした信用スコアが自分の人生に影響することで、中国人が他人に優しく、礼儀正しくなっているという話がある。航空会社のラウンジは、高いチケットを買えば利用できるが、芝麻信用のスコアを保つには、利用料金だけでなく日常の生活態度まで問われるのだ。いいスコアを保持していれば、病院で長い列の最後尾で待つこともなく、駅でラウンジも使える。自分の生活レベルにも影響するのだから、礼儀正しく暮らすことになる仕掛けになっている。

 

もちろん、個人情報を誰かに把握され利用するのは、多くの人に取って好まれることではない。政府に悪用されたり、誰かに弱みを握られるなんて事態は避けたいところだ。しかし、この監視システムが浸透することで、個人主義がまかり通っていた中国社会が、孔子の説く礼楽が行き渡り国民性が変わるとしたら、とても面白い話だ。

 

コロナ前と人々の行動様式が変わるニューノーマルな社会。オンライン授業に慣れた学生が社会の主役になる頃には、社会の相互監視が当たり前になる結果、他己主義的な風潮が広まり、コミュニティが安定するのだろうか。

(初出:週刊エコノミスト 2020.07.27)

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