音声アシスタントとメディア

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これまで2回にわたって、人工知能やブロックチェーンがメディアに応用されるとどうなるか?考えてきた。人工知能は、コンテンツ制作の効率化に寄与し、ブロックチェーンは配信プラットフォームの透明性を増す。今回は、人工知能のインタフェースの一つ、「音声アシスタント」機能を持ったスマートスピーカーとメディアの関係について考えてみたい。

音声アシスタントとは、機械操作を音声で行う機能のことで、AmazonやGoogle、それにアップルなどのIT企業が、プラットフォームを提供している。一般に販売されるスピーカーや機械の背後には人工知能がユーザーの質問に対する最適な回答を分析、用意する。Amazonのスピーカー「Echo」や、GoogleのGoogle Homeといったスピーカーは、音楽をリクエストしたり、明日の天気を聞いたりできる。家電をネットワークすれば、テレビや照明器具のオンオフも音声で可能だ。

Amazonのスピーカー「Echo」は、2015年に販売開始され、現在2000万台以上普及していると言われる。他にも、主要な車メーカーとも提携し、カーナビを音声で操作できる環境を整えようとしている。つまり、人間とコミュニケーションの取れる機械が、家や車といった生活空間に入って来る。そんな機械やその背後にある人工知能と人間が、毎日コミュニケーションを取って入れば、その人の好みがわかってくる。機械の返答が的を得ていれば、人は機械の話すことを信用するだろう。さらに、無機質なスピーカーでなく、ソニーのAIBOやトヨタのKIROBO miniのように可愛い外観のロボットであれば、もっと信頼度が増すに違いない。そして、信頼を寄せている機械たちが、オススメ商品を話しかけてきたら、購買率は今までのどの媒体よりも高くなるのではないか。

米国CNBCによれば、Amazonは、P&Gなどとこうした音声広告の実験を始めるという。いままで、音声メディアといえばラジオしかなかった。電通の日本の広告費によれば、そのラジオ広告市場は、2007年度が1549億円、2017年度は1290億円と成長が止まっている。しかし、こうした話す機械の登場で、音声によるコミュニケーションが新しい展開を迎えるかもしれない。

3月21日にニッポン放送でオンエアされた博報堂ビジネスインキュベーション局の須田和博さんがパーソナリティを務める「スダラボ~音の逆襲」は、そんな「音声」の可能性を感じられた番組だった。須田さんによれば、 商品名を連呼するラジオやテレビのCM手法の源流は「さおだけー」とか「豆腐ぅ」といった町を流す売り子の呼び込みにあるという。また、宮崎駿監督の映画「崖の上のポニョ」公開前に、「ポニョ」という歌詞を連呼する主題歌がメディアを席巻していた。これも、実は優れた広告手法ではないかと指摘していた。

これから、ちょっとした効果音やサービスを始める時の音楽、フレーズなどが、マスメディアのCMに変わって喋る機械やロボットから連呼されるかもしれない。いや、量販店に派遣されるメーカーからの応援店員のように、特定の商品をオススメするかもしれない。

そして、その声質も人工的に作ってしまうことも可能である。例えば、Amazonには、「Amazon Polly」という音声提供サービスがあり、100文字を読み上げる音声をわずか4ドルで利用できる。また、中国の中国企業iFlytekも、合成音声で広告配信を行なっている。何千種類もの音声が合成できれば、当然ABテストをしながら、購買率の高い音声にチューニングされていくだろう。「モノでなく自分を売れ」という営業の格言があるが、スマートスピーカーは自分をユーザーに最適化し、信頼を勝ち取っていく。この格言をデジタル的に実現する。

いままで考えてきたように、音声も内容も最適化できる機械が人間とコミュニケーション機能を持つと、メディアの役割も担ってしまう。テレビはテレビ局、ラジオはラジオ局が必要だった。ハードとソフトは分離されていて、ソフト領域に属するメディアは、ハードから独立し、専門家が運営していた。人間と商品のコミュニケーションを考えるのは、広告業界の役割だった。ところが、人間が心地良いコミュニケーションを機械が行えれば、人間と機械をとりもつ媒体=メディアの存在価値が小さくなっていく。

米国調査会社Forrester社によれば、こうした音声アシスタント機能のついたスマートスピーカーは、2016年に2400万台が販売された。今から5年後の2022年には2.44億台と10倍に増加する。なかでも、アマゾンの自社製品であるエコーは、現在市場の50%シェアがあり、2022年には68%に達するという。

前回考えたように、人工知能を利用し記事制作の効率化をメディアが図るのは利潤を最大化するには正しいだろう。しかし、その結果人工知能が賢くなり、スマートスピーカーのようなインターフェースとしてのハード機械自体がコミュニケーションを取れるようになると、メディアの存在領域が小さくなっていく。広告は「さおだけ」屋さんのような、直接音で聴くものに変わっていくのかもしれない。

  1. Amazon Echo販売台数(2017.10)https://www.voicebot.ai/2017/10/27/bezos-says-20-million-amazon-alexa-devices-sold/
  2. Amazon 音声広告 https://www.cnbc.com/2018/01/02/amazon-alexa-is-opening-up-to-more-sponsored-product-ads.html
  3. Amazon Polly https://aws.amazon.com/jp/polly/pricing/
  4. ラジオ広告費(2007年)http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2009013-0223.pdf
  5. ラジオ広告費(2017年)http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0222-009476.html
  6. スダラボ:http://suda-lab.jp
メディアシリーズ
  1. 第1回「ブロックチェーンとメディア」
  2. 第2回「人工知能とメディア」
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