バーチャルリアリティ市場のプラットフォーム – VR Platform

10年後の未来

前回、VR市場のデバイスレイヤについて考えてみた。今回は、VRコンテンツのプラットフォームレイヤについて考えてみよう。

ここまで見てきたように、VR市場はコモディティ化のスピードが速い。高機能・高価格から低価格の商品まで、分散化が進む市場である。

そんな市場でVRをいかにマネタイズしたらいいのだろうか。

その一つの戦略がプラットフォームの構築である。多様なデバイスに対応し、ユーザーの利便性を上げることで、ユーザーのみならずコンテンツ制作者の支持を集めることができる。それでは、各社のプラットフォーム戦略を見てみよう。

メーカーのプラットフォーム

VRの視聴機器メーカー3社は、各々プラットフォームを構築、ユーザーと開発者向けにマーケティングを展開している。ソニーはPlayStation、OculusはOculus Storeがあり、HTCはHTC VIVE Portを始める。

他に、独立系として米国ValveのSTEAMがある。元々ゲーム開発会社だったValveが始めたPCゲームの配信プラットフォームSTEAMは、1.25億人のアクティブユーザーがおり、4,500タイトル以上のゲームを配信している。HTCと提携し、HTC VIVEのゲームはSTEAM VRで配信される。

黎明期にあるVRゲーム市場のユーザー向けマーケティングは、人気映画や人気ゲームのVR版などライセンスビジネスが、まずその成長に鍵を握る。今までのゲームファンや映画ファンがVR版に興味を持ち、購入すれば、VR市場は成長し、コンテンツホルダーも潤う。

また、開発者向けのマーケティングでは、各社の持つ技術の開放が重要である。資金力の無いデベロッパーにとって、プラットフォームが保有するVR向けセンサーやモーショントラッキングの技術を利用できれば、新たなコンテンツ開発が容易になる。例えば、STEAMを運営するVALVE社は自社のトラッキング技術の利用を無料開放している。こうした施策により、HTC VIVE向けのVRコンテンツが促進される。

YouTubeやFacebookの戦略

こうしたメーカー3社と競合するのが、YouTubeやFacebookである。両者とも、VR以前に既存市場のルールを変えてきた企業である。

Facebookの初期成長の原動力は、FarmVilleというソーシャルゲームだった。コンソール主体のゲーム市場にスマートフォンでプレイするカジュアルでソーシャルという分野を開拓し、Facebook向けコンテンツ制作を自社でなく第三者に開放するなど、市場ルールを変えてしまった。

YouTubeもコンテンツ制作を一般ユーザーに開放することで、テレビや映画会社しかプレイヤーのいなかった映像市場を変えた。

FacebookやYouTubeのコンテンツ開発は、一般の消費者が主役である。1時間に10億時間分増え続けるYouTubeの動画、毎月10億回以上投稿されるFacebookのコンテンツ。このボリュームがゲームのルールを変える原動力だった。

もし、これらのコンテンツの1%だけでもVRの360度映像になれば、大きな市場が生まれる。

Facebookは、一般ユーザー向けにFacebook360というページを開設し、360度映像のアップロードの仕方や、手ぶれ補正のソフトなどを公開している。

また、GoogleはDAYDREAMという名前で、VR向けビジネスをブランド化している。DAYDREAMは、Android向けVRゲームの開発者向けコミュニティである。

大量のコンテンツによって、VRの消費者を増やす。VRをゲームだけでなく360度映像にまで、その領域を拡大すると、この2社はメーカーのプラットフォームにとって、脅威的な競合プレイヤーである。

リアルな体験

こうしたプラットフォーム以外に、リアルな機器を作り、販売するプレイヤーもいる。

例えば、米Virtuix社のOmni は、トレーニングジムのロードランナーのような器具やシューズとともにVR機器を販売する。Omniは、クラウドファンディングで100万ドル(約1億円)を集め商品化された。ショッピングモールやイベントへの貸し出しや、ライセンス販売などのビジネスが考えられる。

また、スウェーデンのゲーム制作会社Starbreezeは、IMAXと提携し、VRシアターを展開する。Starbreezeは同社のVRの専用機器(HMD)StarVRを台湾Acerと開発する。

競合の激しいB2C市場だけでなく、大手劇場チェーンと提携し、B2B2Cで新たなマネタイズ手法を開発する。

ほかにも、ボストンのベンチャー企業「Vizoom」社は、VRと結びつけてた室内バイクを開発している。VR映像には、馬に乗った競争とか、自動車競争が映し出され、自分で速くバイク漕ぐと、馬や自動車が速く進む仕掛けになっている。VRゲームをしながら、体力増進にも役立つことも狙っている。こうした体験サービスも、VRのマネタイズ手法として注目していいだろう。

VRのマネタイズとしてのプラットフォーム

プラットフォームの成長は、ユーザーフレンドリーなインタフェースと、対応ハード機器の普及台数に依存する。モバイル時代の我々がいつも考えなければいけないのは、スマートフォンである。VRも例外ではない。

かつてゲーム市場は、各メーカーのコンソールの販売台数がそのままプラットフォームの強さであった。しかし、スマートフォンの登場で、PlayStationやxBOXといったゲームコンソール全体を合わせたパワーと全てのスマートフォンという競争軸が変わってしまった。

この競合関係は、そのままVRのB2C市場にも持ち込まれる。GoogleやFacebookなどのプラットフォームとハード依存のそれとが競合する。

以上まとめると、現状VRには、ゲームや360度映像のようにスマートフォンや専用機器で楽しむコンテンツを提供するビジネスと、OmniやVizroomのような遊園地やショッピングモールのアトラクションとして提供するビジネスのマネタイズ手法がある。

次回は、VRのコンテンツレイヤについて考えてみたい。

(初出:Insight D by Yahoo! Japan 2016年)

 

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