スポーツテックについて

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テクノロジーはスポーツにも取り入れられている。その潮流は二つのパターンに分類できるだろう。

一つは、ゴルフのスイングスピード、野球のピッチャーが投げるボールの回転数といったプレイヤースキルのデータ化である。データを指標化し、スキルを比較できれば、トレーニングにおけるゴール設定や、どのようなチームを目指すかチーム編成が可視化できる。個々のプレイヤースキルを数値化し遊ぶゲームをリアルなスポーツに持ち込む流れといえる。

もう一つは、プレイヤー同士のIoT化とでもいえるプラットフォーム化である。ゴルフスコアを記録するアプリを利用すれば、個人のスコアで、スマホゲームのように他人と競うことができる。欧米にはゲーム感覚で利用できるボウリング場のような打ち放し練習場もある。こうしたサービスの特徴は、スマホなどを通しプレイヤーデータが共有化され、プレイヤーデータなどが集積される点にある。ユーザデータを集積したプラットフォームは、様々な関連ビジネスを生み出していくだろう。

わたしたちはゲームやビジネスなど普段の生活で様々なテクノロジーに触れている。下記「Topgolf」社提供のWGTというスマホのゴルフゲームアプリは、ペブルビーチなど実際のゴルフコースをHD映像で再現しており、飛距離、スイングスピード、風向きなどデータを用いながら遊ぶ。であれば、こうしたデータに慣れた人たち、特に若年層を取り込むには、ゲームと同じような仕組みがリアルなスポーツにも必要であろう。

そんな若年層の取り込みマーケティングに成功している企業が米国にある。「TopGolf」はチップを埋め込んだゴルフボールで遊ぶゴルフ練習場を、米国、英国などで40ケ所展開する。フィールドに設けられたデジタルグリーンを目掛けてボールを打つなどしてスコアを競う。2017年は平均35,000人が来場し、その70%が34歳以下の若年層である。TopGolfは、日本で一般的なゴルフ練習場よりも、ボウリング場に近いイメージだろうか。ゴルフをエンタメ化して若年層を掘り起こしている。

米国NGF(National Golf Foundation)によると、ゴルフのビギナー人口が、過去最高だった前年からさらに14%増えているという。2016年米国のゴルフ人口は、前年より1.2%の減少で2,380万人だった。

日本はどうか。「レジャー白書2017」によると、2016年にゴルフコースを年1回以上プレイしたことのある人は、前年から210万人も減少、550万人となった。前年から28%の減少である。Topgolfのようなテクノロジーを利用した大衆化が必要なのではないだろうか。

他にもGPSデータを利用した製品メーカー米国Garmin社のゴルフウォッチは、全世界数万ゴルフ場のコースMAPが内蔵されており、GPSを利用し、コースを回っている時に自分の位置、グリーンまで残り何ヤードかといったデータが表示される。

プレイスキルの可視化領域でも、欧米企業のイノベーションは進んでいる。軍事用ミサイル追尾技術を転用したデンマークTrackman(トラックマン)社は、スイングのスピード、ボールの飛距離などを計測、データ化する製品を販売している。

ゴルフ中継でも、ボールの弾道やスイングスピードなどのデータが表示されることは一般的になっている。視聴者も、選手のスイングスピードと飛距離などを比較しながらテレビ中継を楽しむことがいまや自然な感覚であろう。

また、もっと劇的な変化は、テクノロジーでスイングの動きなどが可視化されたおかげで、ゴルフのスイング理論が20年前と全く逆の理論になってしまったことだろう。

ゴルフの楽しみ方だけでなく、コーチングも、データを元にしたものに変化しているのである。

また、こうしたテクノロジーは野球にも取り入れられている。Trackmanは大リーグで採用され、日本のプロ野球でも昨年から導入する球団が増えている。ピッチャーの投球の回転数、打球の初速などを計測し、分析することで、技術の向上につながるトレーニングを行う。

米国では、小説や映画にもなった「マネーボール」以来、セイバーメトリクスと呼ばれるデータ分析がファンやメディアを中心に普及している。セイバーメトリクスの指標は、公式データとしては採用されてないものも多いが、野球をデータとして楽しむ層を拡大している。2016年米国大リーグ30球団の収益は90.3億ドルで、前年から7.5%増加した。

このように、スポーツにテクノロジーを取り入れる動きは、新しい需要喚起につながる。ビジネスチャンスは大きく、欧米では新規参入が活発である。日本にもその波は来ないのだろうか。

  1. 日本ゴルフ人口(日経):https://www.nikkei.com/article/DGXMZO20232650S7A820C1000000/
  2. 米国ゴルフ人口:https://www.golfdigest.com/story/the-ngf-annual-golf-participation-report-uncovers-favorable-trends-for-the-games-future
  3. NGF:http://www.ngf.org/pages/golf-participation-us
  4. トップゴルフ:https://topgolf.com/us/
  5. 大リーグ球団収益(2017年):https://www.forbes.com/sites/mikeozanian/2017/04/11/baseball-team-values-2017/#5766ea224515
  6. (初出:週刊エコノミスト 2018年4月17日号

 

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