ブロックチェーンとメディア

メディア動向

印刷、通信、放送、そしてインターネット。活版印刷が生まれた15世紀以降、テクノロジーは、既存メディアの課題を解決し、その外側に新たなメディア領域を拡張してきた。

では、21世紀に入って勃興した新たなテクロノジーは、メディアにどのような影響を与えるのか。以前Insight for Dで議論したVRやARだけでなく、AI、それにブロックチェーンなどメディアに関わるテクノロジーの進化は誰も止められない。機械と人間が共存する近未来に、メディアはまだ存続できるのか。そんな疑問を頭に浮かべつつ、この連載でメディアとテクノロジーの関係を議論していきたい。

第1回めはブロックチェーンについて。「ブロックチェーン×メディア」の先になにが見えるだろうか。

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンは、不正・改ざんの出来ないデジタル記録台帳である。記録を全員で認証するため、管理者が必要ない。コミュニティの全員が直接参加する。直接民主制である。ゆえに不正が出来ない。この透明性と非中央集権型がブロックチェーンの特徴だ。

よく間違えられるが、ブロックチェーンは、ビットコインではない。ビットコインは、ブロックチェーンを利用したサービスの一つ。仮想通貨だけでなく、透明性と非中央集権型で低コストな特徴を活かし、エストニアなどでは住民台帳など行政に応用している。モノ、カネ、ヒトの移動を記録する手段としてブロックチェーンは最適なのだ。そして、このブロックチェーンをメディア・コンテンツビジネスに応用するプロジェクトもある。

たとえば、ドイツで2016年に始まった「Ascribe」は、デジタルコンテンツの取引をブロックチェーンで管理する。Ascribeに登録された作品は、固有のIDを付与される。その作品IDを送金データに加え、ビットコインの送受金を行うことで、取引履歴がブロックチェーンに残る仕組みである。不正・改ざんができないブロックチェーンの性質を著作権管理に応用している。ブロックチェーン初期のアイデアといえる。

もう一つ、最近の流れは、プロジェクトで発行するトークン(仮想通貨)をメディア持続性の動機付けに利用するもの。米国「Steem」は、投稿型ブログメディアであるが、投稿者と読者にトークンを配布し、良質な投稿を促進する。「いいね!」がたくさん付いた記事のライターはトークンを多くもらえるのはもちろんのこと、そうした記事にいち早く「いいね!」を付けた読者も、良質なキュレーターとしてトークンをもらえる。日本にもSteemと同様のプロジェクトALISがある。「News Picks」に報酬としてトークンを加えたようなものだろうか。

また、2018年1月にラスベガスで開催されたCESのブロックチェーンセッションにも、まだ知られざるメディア・コンテンツ系のプロジェクトが多数いた。「Videocoin」は、個人のパソコンをネットワーク化するP2Pの配信システムをブロックチェーンを用いて行う。エンコードやストレージなど映像配信に必要な作業への貢献度の対価として、トークンを付与する。

今後5年間でインターネットにアクセスできる人は5億人増え、40億人になり、Ciscoによれば、2016年-2021年にモバイルのデータ利用量は7倍に増える。この膨大なネットワーク利用量を、利益を出し続けなければならない企業が支えられるのか。Videocoinが提案する解決策が、非中央集権型のP2Pとトークンを合わせたモデルである。Hasley Minor CEOは「資産を自ら持たないプラットフォームである「Uber」や「AirBnB」の動画配信版を目指す」と言っていた。

ほかにも、「Alpha Token」は独自のブラウザを開発、そのブラウザを介したコンテンツ消費に対し、広告主から消費者にトークンが配布される。CEOのWallace Lynch氏は、「あらゆる人のクリエーション活動を応援すべく、このプロジェクトを立ち上げた」と語っていた。Alpha Tokenはこの仕組みからは収益を受け取らず、自身の持続性はICO(Initial Coin Offering)からの収入でまかなうという。

今後

YoutubeやNetflixはコンテンツの流通革命だった。テレビと同じコンテンツを、テレビよりも利便性を上げ、安価にサービスを提供した。ただ、彼らは企業体として株主への貢献を求められるし、プラットフォームとクリエイターには超えられない役割分担がある。2017年4月にYouTubeが再生回数1万回を超えないクリエイターへの支払い方針を変更したように、ユーザーは、彼らのプラットフォーム運営に参加できない。

ところが、ブロックチェーンを応用したメディアプロジェクトの多くは、プラットフォームをコミュニティと捉え、運営側も参加者も全員がそのコミュニティの意思決定に関わることができる。Alpha Tokenは自分たちの収益には興味がなく、またALISは、ネットコミュニティで、プロジェクトメンバーと一般ユーザーが、サービスの方向性についてディスカッションしている。

撮影や編集機材は安価になり、誰もが情報の作り手であり受け手になった。しかも、世界人口の残り半分は、まだこのインターネットに参入していない。そんな未来を考えると、テクノロジーを資本主義的に扱うのではなく、全員参加型でシェアリングエコノミー的なブロックチェーンの仕組みがしっくりくる。テクノロジーは効率性を追求するためだけではなく、社会運営のコンセプトそのものを変えるために利用する必要がある。海賊版やページビュー偏重といった効率性が生み出すメディアの課題解決にブロックチェーンは最適なテクノロジーだろうし、そこから生まれるメディアは、既存メディアとはその本質が変わっているだろう。

(初出:2018年3月 Insight for D, Yahoo!)

メディアシリーズ
  1. 第2回「人工知能とメディア」
  2. 第3回「音声アシスタントとメディア」
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