シェアリングエコノミー = 日常生活の行動データ

非中央集権型社会
所有から利用へ

ビジネスの考え方が、「所有」から「利用」に変わってきたと言われて久しい。「利用」に重きを置いたビジネスをシェア(共有)という言葉を使い「シェアリングエコノミー」と呼ぶ。週末以外使われない自家用車をタクシー代わりに提供する「Uber」や、空き部屋を旅行者に貸し出す「Air BnB」が急成長し、有名になったシェアリングエコノミー。シェアリングエコノミー協会発表資料によれば、同市場は2018年約2兆円規模であるが、約10年後の2030年には5倍の11兆円にまで拡大するという。

シェアリングエコノミー市場は、モノ、移動、空間、スキル、お金の主に5つのカテゴリに分かれている。モノや移動、それに空間をシェアするサービスが先行し、成長したが、ここにきて活況を呈しているのが、スキル・人材系である。

スキル・人材系で先行するのが、家事一般を賄うサービスである。ベビーシッターや家事代行を行う「キッズライン」は2014年創業、現在は3000名以上のベビーシッターを抱える。同じく家事代行サービスを行う「タスカジ 」の利用者は7万人、派遣される人材は2000名を超える。ほかにも「カジー(Casy)」「カジテツ」など多くの事業者がいる。子育てから開放された主婦の空き時間と、働きながら子育てを行う女性の家事代行ニーズをマッチングしている。

スキル・人材系のシェアリングエコノミーサービスは、こうした日常生活のニーズを細やかにすくいあげソリューションを提供することでマネタイズする。生活習慣が多様化しているからか、ほかにも多種多様なベンチャーがこの市場で生まれている。アパレル系、教育系、エンタメ・文化系などなど。

たとえば、アパレル系では、スタイリストを家庭に派遣、コーディネートを提案しながら、クローゼットを整理してくれる「Minuite Style」、自分で考えたデザインの衣服を作って(縫って)くれる「nutte」などがある。

「Minute Style」は、コロナで仕事の減ったスタイリストに新たなビジネス機会を提供する。「nutte」は、2015年創業。ロット数などを気にすることなく一点モノを作ってくれる。縫製だけでなく、染めなども請け負ってくれる。同社は事業を通して、大手メーカーの下請け的な地位に留まっている「職人の技術を正当に評価される」環境作りを目指している。

職人やスタイリストだけでなく、クリエイターやエンジニアのマッチングサービスも多々生まれている。描きたいと描いてほしいをつなげるというクリエイターのマッチング「SKIMA」や、キングコング西野亮廣の絵本「プペル」の制作協力をした「MUGEN UP」など。

そもそも、個人の作り手と依頼主をマッチングするプラットフォームは、「クラウドソーシング」という名前で、ひと昔から存在する。「ランサーズ」は、2008年創業、2019年マザーズに上場している。2020年3月期は、売上34億円、経常損失3億円である。ランサーズは、フリーランスのエンジニア、デザイナーとWeb開発やシステム開発をアウトソースしたい企業をマッチングしてきた草分けだ。

エンジニアやクリエイターは、ビジネス用途のアウトソース市場だが、ニーズの掘り起こしが日常生活にまで広がっているのが、最近のシェアリングエコノミーの特徴である。いますぐモノをどこかに届けて欲しい時に、数分で運んでくれる人が現れる「PickGo」や企業のアドバイザーを派遣する「顧問バンク」などなど。アイデア次第で次々と新しいベンチャーが誕生する。日常生活のニーズ、カテゴリの発見がそのまま起業やビジネスにつながっている。

 

「個人データ」がビジネスの核になり、利益の源泉になる

盛り上がるシェアリングエコノミー市場のスキル・人材系市場。ビジネスの仕組みは、ニーズのマッチングが基本である。オンラインのマッチングシステムを開発すれば、その後はそれほど元手がかからない。

こうしたスキル=人材系シェアリングエコノミー市場のベンチャー企業の強みは3つあると考えている。

第1に、彼らは日常生活の「利用」データを集積している。ビジネス形態が「所有」から「利用」になると、顧客データの重要性は、「購買データ」から「利用データ」へと移行する。その点で、シェアリングエコノミーの人材系プラットフォームは、決済データを取得するコマースや金融系プラットフォームよりも付加価値の高いデータを集積できる。いまや、我々の日常生活は、こうしたシェアリングエコノミーのベンチャー企業に可視化されている。

第2に、彼らは日常生活の細かなニーズの発見者であるとともに、そのソリューションも提供する。日々の生活でどんなニーズがあり、誰がそのソリューションになるのかを把握している。スキルを提供する側の人材もデータベース化される。ニーズを発見すれば、すぐにマネタイズできる体制になっている。

第3に、ビジネス運用が低コストなマッチングシステムである。人材エージェントやタレントマネージャーを介さずシステムが自動マッチングする。日常生活のニーズに合わせた人材マネジメントはロングテールな領域であるため、低コスト運用が求められる。このコスト構造は、既存企業への競合優位になり、市場参入の障壁にもなるだろう。

低コスト運用と便利なサービスが市場を席巻、急成長するのは、イノベーションの典型的な事例だ。シェアリングエコノミーのスキル・人材系ベンチャー企業は今後合従連衡を繰り返し、巨大化するだろう。巨大化した企業は、日常生活のニーズをビッグデータとして可視化、ソリューションを提供する。GAFAにも打ち勝つイノベーションを起こす可能性ある。

 

(初出:スキル・人材のシェアが活況 「個人データ」が利益の源泉、週刊エコノミスト、2021年12月1日)

(関連リンク:週刊エコノミスト シェアビジネス:Air bnbやカーシェアリング、Uberに続き「人のシェアリング」に脚光が当たっているワケ  


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