いま日本人の誰もが持っている共通認識のひとつに、人口減少問題があります。日本の人口が1億人を超えたのが1970年。現在は1億2千万人。そして、2045年頃に、また1億人を割り込むと予想されています。
それでもまだ1億人いるじゃないかと思う人もいるかもしれません。少なくなったら、競争が減って住みやすくなりそう、と考える人もいるでしょう。
会社で働いていても、似たような問いかけを見かけます。毎年売上が増える事業計画を立てなければならないのか、去年と同じでもいいじゃないか、現場の人の多くはそう思っているでしょう。しかし、自分の経験からいうと、売上が横ばいの企業はあまり社内の雰囲気がよくありません。
企業の事業戦略部門は、売上の増加が見込めないと、経費削減で、利益を確保しようとします。そうすると、去年まで行けていた出張旅費がでなかったり、キャンペーン施策の制作物が作れなくなったりします。売上は減ってないのに、日々の活動が制限されてしまうのです。そうした組織に属していると、なんだか気分もよどんできます。つまり、企業にいると売上が伸びないと会社の雰囲気も良くなりません。
ただ、わたしたちは、こうしたビジネスパーソンとしての一面と、家に帰って一市民として暮らす両面を持っています。人口が減ってもいいじゃないかと考えるのは市民としての視点、それでは困るというのはビジネスパーソンとしての自分の思考です。最近は、ビジネス社会でも右肩あがりの成長でなく、持続可能性ということが言われています。国連がSDGs(Sustainable Development Goals)というコンセプトを掲げ、地球規模でものごとを考えようという活動を広め、リコーなどそれに賛同する企業もいます。
ここで問題はサステイナブル=持続可能性とはどういうことかということです。先月、日本海側の伝統工芸の産地で行なわれたイベントにいくつか参加してきました。その一つ、新潟県の燕三条地域で開催された「工場の祭典」で開かれていたセッションで、伝統工芸産業の後継者不足が課題として上がっていました。
経済産業省によると、伝統的工芸産業品の市場規模は、約1,000億円、従事者数は約70,000人。この40年で、売上も従事者数も1/4になっています。人口が減れば、職業の数も減るでしょう。後継者が減っていけば、その産業も消えていきます。
ただ、これはビジネス的な視点での考え方です。儲からなくても、その仕事が好きだから就業するという人もいます。そのような仕事は、人口が減っても生き残るでしょう。
人口が減っていく、売上規模が減っていくなかで、なにを残し、棄てるのか。人工知能やロボットが単純作業をするであろう近未来。職人的な手仕事は代替されないでしょう。ただし、収入はそれほど高くない。人口減、サステイナブルなどを考えると、これからは、ビジネスパーソンよりも一市民的な考えで仕事を選ぶ考え方が増えるのではないでしょうか。
(初出:2017.11 AD・HRニュース マスメディアン)