アメリカ、イギリスの行動ターゲティング広告のプライバシー問題


 

■ 行動ターゲティング広告 序曲 ロンドン!

イギリスにPhormという広告系ベンチャー企業がある。いやPhormはアメリカの企業なのだが、イギリスで電話会社のBT(British Telecom, 日本のNTTみたいなもの)ビジネスを行おうとしていた。なぜ、イギリスなのか。イギリスは、プライバシー規定が緩く、ビジネスが可能だったと判断したからだろう(推測)。Phormは非常に頭の良い人が運営しているぽいよ。イギリスの次は韓国でビジネスを行おうとしていた。5月から動きは止まっているが。。

■ プライバシーと個人情報

プライバシーと個人情報は、とてもボヤーんとしながら入り組んだ問題だ。まず、国によって法律が違う。だから、Phormのように、国を絞ってビジネスをする企業がでる。

プライバシーといっても大きく2通りある。個人の生き方の自由、たとえば中絶、離婚を自分で決定きる権利、もうひとつは、住所、メアド、人種など個人データを自分でコントロールできる権利だ。なんだか、宗教の規律、人種差別など学校で習った啓蒙主義、市民文化の高まり、など西洋的思想が背景にあるんだなぁ、と直感できる。← あってる??

現在のプライバシー関連の法律の源流は、1980年のOECD8原則とされている。その後、1995年、EU指令が制定され、EU各国はこの指令に準拠する形でプライバシー関連の法律が制定されることになった。しかし、EU指令に準拠しないままの国も出てくる。その一例がイギリスだった。

2007年になってPhormが目をつけたのは、そこだ。イギリスとEUは、お互いに喧嘩というか、要はあまりイギリスがEUの勧告に従っていない状態が続いている。

■ 個人データ、盗聴、インターネット

さて、そこでこのインターネット時代、やけにプライバシーという言葉が目につくよね。著作権の次くらいか。。

ここでいうプライバシーは、人生選択の自由のほうではなくて、個人データのほうだ。僕だったら、「住所?別にいいじゃん」と思ってしまう。が、これは戦争、スパイ、なんかの企みを経験したことないからだろうし、一人暮らしの女性じゃないからだろう。

いや、それ以前に、この西洋の個人データ保護について調べていくと、これは国家に対する市民、個人の権利として勝ち取られてきたものだということが想像できる。ヨーロッパは、個人データを保護する考えが強いと言われているのもなんとなくわかる。いまある自由は永遠なものではなく、常に国家を監視、闘っていかねばならんと身が引きしまる。

ところが、イギリスは1日歩くと500回(大げさ?)監視カメラにシャッターを切られるという国だ。実際、ロンドンに行くとこの写真のような看板があった(2007年9月)。リトビネンコや、アラブから来た人たちなどがたくさん道を歩いていて、テロ対策というのもわかるけど。。とにかく、国家がまっとうな理由があれば個人データを集めることができる、という規定になっている。

そこが、EUが噛みついている論点だ。EUは、「イギリスじゃ、合理的な理由があるならば、通信傍受は可能」となっているが、これはEU指令では違反なんだ!と言っている。(2009年4月14日のEUが出した文書

ところで、個人データってどうやって集めるの?っていうと、法律によく規定されているのは、電話で盗聴ってやつだ。電話は通信ともいう。そこで、電話業界にいる人は「通信の秘密」、略して「通秘(つうひ)」と呼ぶ。はっきり言って最初はなにを言っとるのかわからんかったけれども。。盗聴、傍受は、intersept(インターセプト、ラグビーでインターセプトされるととても悔しい気持ちになる)、tapping (タップというのは、タッチとか触れるとか触るとか・・、水道水は tapped waterって言うよ)と法律用語には書かれている。

イギリスの法律、RIPA『捜査権限規制法』 (Regulation of Investigatory Powers ACT 2000)では、郵便と電話双方で、そういった盗聴、手紙を途中で開けるなんてことは違法であるとされている。つまり、郵便でも電話でもメールでも、出し手と受け手がいるよね。手紙の中身を、受け手でも出し手でもない第3者が勝手に見ちゃあかん、というのが「通信の秘密」の基本的なコンセプトだ。

しかし、これはインターネット出現以前の話。インターネット時代は、もう少しややこしい。

インターネットでサイトが見れる仕組みって知ってるだろうか?

目の前のパソコンにURLを入力すると、その入力したURLのサーバーというデータ格納ボックスが、自分のパソコンにそのURLで表示される画面イメージをデジタル情報で返してくれる。ブラウザがその情報を読み込んで動画や画像を表示してくれる。つまり、手紙や電話と同じで、誰かとやりとり、コミュニケーション、とも言うか?、しているわけだ。

ここで問題となるのが、インターネットのこの無数のやりとりを簡素化しようと、とある情報を違う場所に移したり、一時的に保管したりする技術が生まれたことだ。これが、自分のデータを一時的にでも、誰かに保管されている=自分ではアンコントーラブルだという主張につながっていく。著作権関連の問題もここにかかわってくる。一時的蓄積は著作権侵害だろう、なんて。。

イギリスのPrivacy and Electronic Communications Regulations 2003 では、情報蓄積はユーザーへの説明、了解が必要だと定めている。

EU指令第5条でも、同意無しの通信傍受は禁止と定めている。また、第2条には、個人情報の利用は、その利用方法を明確にした上で、事前同意が必要と定められている。

Phormのケースは、2層に分けて考えるとわかりやすい。  

   ■人権団体とPhorm
   PhormとBTが、ユーザーに告知せずに行動ターゲティング広告の実験をそのこと対し、プライバシーの侵害だとして、人権団体に訴えられた 

   ■EUとイギリス政府
   EUは英国政府に対し、PhormとBTのビジネスは、EU指令に違反していると指摘
   イギリス政府は、無回答

■ ワシントン!  2008 August

Phormと同じようなケースが、アメリカでも問題になった。NebuAdだ。NebuAdもPhormと同じDPIを広告に応用したビジネスを考えた。

NebuAdのお客さんは、ネット接続サービスも提供しているケーブルテレビだ。Charter(ちょっと前に、破産申請した)、WOWなど中堅どころのケーブルテレビ企業30社と契約していた。

NebuAdも、2008年6月くらいから、人権団体にプライバシー侵害だと問題にされ、7-8月に米国下院の委員会に呼ばれ、証言をした。その頃が、アメリカでこのDPI反対のボルテージがピークだったように思う。

その後9月に、NebuAdのボブ・ダイクス( Bob Dykes )CEOが辞任、10月にはアメリカの拠点を閉鎖した。今ではもうホームページの痕跡もない。

■ 行動ターゲティング広告には、オプト・インが必要

イギリスのPhorm、アメリカのNebuAd、双方ともやり玉にあがったのは、広告配信の前にユーザーにお知らせをしなかったことだ。いや、お知らせすべきは、Phorm、NebuAdではなく、Phormと提携したBT、NebuAdと提携したケーブルテレビ会社だったのだが・・・

どーも、ユーザーにバレると困ると考えていたのか、それもベンチャー企業に「大丈夫ですよ」と言われていたのかわからないが、事前のお断りが不明確だったようだ。

BTもケーブルテレビ会社も、議会、EU政府、人権団体が訴えたときに、法的な根拠として用いたのは、「通信の秘密」規定だった。事前の同意無しに、電話やメール、どんなホームページを見ているか、を盗み見てはいけない、という規定だ。

EUとイギリスがモメているのは、イギリスではこの「通信秘密」規定が少しゆるく、合理的な理由があれば傍受も可能とも読めるかららしい。。。Phormはここに目をつけたハズ。Phormは、2009年4月韓国でKT(韓国の通信キャリア)と提携、ビジネスを始めようとした形跡がある。その後ホームページは更新されていない。KT Kook(Cooking)というサービスに組み込まれている。

■ 日本

日本は、電気通信法の「通信の秘密」規定の解釈論によって、こういったプライバシー、盗聴の禁止に対応してきた。通信の出し手と受け手の間に入って内容を傍受、変更してはいけない。

(書きかけ。続く・・・)

■参考■ インターネットの広告指標について ニューヨーク 2009年3月の議論

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました